心理カウンセラー関連講座

心理・
カウンセリング

KSCC統合的心理療法セミナー 講座内容 《2022年度》

講座内容

第1回:フォーカシングとナラティヴ・セラピーの交わるところ 6/12(日)

<講義1>坂本真佐哉先生:「ナラティヴ・セラピーからの眼差し」

ナラティヴ・セラピーは、クライエントと共にストーリーの書き換えに貢献する心理援助です。私は、会話が続けば自然とストーリーはクライエントの望むものに書き変わるのではないかという考えに最近ハマっています。つまり、条件が満たされさえすれば、会話は続き、クライエントが自らの好むストーリーに辿り着くのではないでしょうか。では、会話の続く条件とは何か、セラピストの責任性はどこにあるのか、クライエントに敬意を払うことは具体的にはどのような実践なのか、そのようなことについて議論できる場になればと思っています。

<講義2>池見 陽先生:「体験過程モデル~私の最新の心理療法論をめぐって~」

目下のところ、私には3つの大きな研究課題がある。その中でも私が最もエネルギーを注いでいるのが、この「体験過程モデル」である。私たちは心理療法という営みをどのように理解しているだろうか。その言わば”基本OS”の上に、さまざまな”プログラム”つまり心理療法実践が動いている。「プログラムを動かすスキルがあれば、基本OSなんて、考えても仕方がないではないか」という声が聞こえてきそうだが、どうやら私は基本的なことを考えるのが好きな類の人間らしい。無意識とは? 話すという行為は体験にどのように作用しているのか? 私たちは過去に支配されているのか、過去を上書きしているのか?幸い、この時期にこのテーマで執筆した論文が人間性心理学研究に掲載される。それは具体的なセッション事例を含むものなので、このような基本的なことを事例を交えて考えてみたい。

第2回:思春期・青年期の心理療法  7/24(日)

<講義1>加藤 敬先生:「幼児期、児童期、青年期での心理治療・支援における統合的な姿勢」

幼児期、児童期、青年期は成人になるまでの準備期といえます。成長の途上では多くの困難があり、適応に障害が出る場合もあります。そうした人たちに対して心理治療・支援を行いますが、各年代での自己発達の特徴や心理的課題を踏まえ、各時期にとって治療や支援がどのような役割を持つのか理解することが大事です。講義ではこうした理解に統合的な姿勢がどのように生かされているか、事例を交えながらお話したいと考えています。

<講義2> 崔 炯仁先生:「思春期・青年期の『心を見わたす心』を育てるメンタライジング・アプローチ」

境界性パーソナリティ障害や摂食障害、自己破壊行動を伴う思春期・青年期への心理療法として広がりを見せるメンタライジング・アプローチについてお話しします。このアプローチではメンタライジング(自己と他者の行動の背景にある心理を理解しようとすること)の促進をとおして、感情を調整する力を伸ばしていきます。メンタライジングの成長は青年期課題、特に分離や自他境界の体得につながると演者は感じています。このアプローチをとおして皆様と幅広く青年期の治療過程について議論を深められることを楽しみにしております。

第3回:精神分析とユング心理学の現代的接点 9/18(日)

<講義1>広瀬 隆先生:「統合的視点からユング派を考える:早期関係トラウマからの出発」

ユング心理学は一世を風靡し、心理学領域に限らず、広く日本に影響を与えた。しかし、セラピーで、どう見立てどう関わっているかとなると、ユング派の間で必ずしも共通の見解を示せるわけではない。本講義では、関係論・トラウマ論・発達的観点を導入する必要を感じ、さらには神経科学へも接近中の講師が、ユング心理学を基盤としながら、クライエントの役に立つためにいかに自分なりの統合的視点を構築しようとしているか、その試論を提示する。

<講義2>岡野憲一郎先生:「精神分析と愛着、トラウマ、解離、脳科学」

現代的な精神療法を考える場合に、愛着の問題や、トラウマの視点、解離の機制などを考えに入れることはむしろ必然と言える。そしてその背景となる脳科学的な理解も有用となる。これらの要素が現代的な精神分析においてどのように論じられ、治療論に反映されているかについて論じ、その視点から統合的な心理療法のあるべき姿について考えたい。さらにウィルキンソン(ユング派)の近著「セラピーと心の変化:情動・愛着・トラウマ、脳科学」の内容にも触れたい。

第4回:システムズアプローチの実践  10/16(日)

<講義1>田中 究先生:「システムズアプローチにおけるコラボレーションとは」

システムズアプローチは、広く状況や関係に目を向けながら時に同席面接のような形をとって直接関係者に働きかけることを特色の一つとしている。その際、支援者の専門知識や経験を留保することで支援に対する期待を知り、それに応えるべく支援者自身を変えることができるかどうかが勘所となる。当日は「フレーム」「パターン」の2概念からコラボレーションを中核に据えたシステムズアプローチの実践モデルを示し、議論を深めたいと考えている。

<講義2>東 豊 先生:「初回が命のシステムズアプローチ」

かの有名なJヘイリーも初回面接を制するものは面接全体を制するといったことを述べていましたが、全く同感。初回面接ではどのようなことに注意して面接を進めることが望まれるか。また初回でできることは何か。様々なシチュエーションを考慮しつつ議論を展開したいと思います。

第5回:心理臨床における社会・経済・文化的要因 11/13(日)

<講義1>杉原保史先生 :「ポリティカリー・インフォームド・アプローチ:倫理・社会正義・政治と心理カウンセリングの統合」

私たちセラピストは、心理療法を実践することで、無自覚のうちに、主流文化の価値観をクライエントに押し付けてしまってはいないでしょうか? クライエントの苦悩を、クライエント個人の内面の問題としてのみ見ていると、その心理療法の行為自体がクライエントを傷つけてしまうことがあります。クライエントの苦悩には、大きな社会の文脈の中で理解される面が常にあるのです。そのことに注目すると、心理療法はそれ自体がきわめて政治的な営みでもあるということが見えてくるでしょう。

<講義2>和田香織先生:「不公正な社会の維持装置にならないために~心理療法における社会正義~」

近年、社会正義(Social Justice)が心理療法・カウンセリングにおける第五勢力として発展を遂げてきました。多様性、公平性、人権の尊重、社会変革などの実現を志向する社会正義という視点は、心理療法の実践や訓練に大きな転換をもたらしています。基本理論、および北米での動向や実践を共有することで、日本での応用について一緒に考えたいと思います。

第6回:日々の臨床に新しい観点を取り入れる~認知療法とメンタライジング・アプローチ~ 12/18(日)

<講義1>東 斉彰先生:「認知への介入とメンタライゼーションの統合的活用」

情報処理理論に近似する認知療法のセラピー概念と、「心を心で思うこと」とされるメンタライゼーションとは、その深さにおいて大きく異なる概念に見える。認知療法では「認知を認知する」というメタ認知の視点が重要とされるが、メンタライゼーションでいう「心で心を思う」とはどのように違うのだろうか。本講演では、以上のことを考察しつつ、2つのアプローチの異同を超えて、広く心理療法のメカニズムについて論じたいと考えている。

<講義2>上地雄一郎先生:「メンタライジングの視点は心理療法的面接をどう変えるか」

メンタライジング・アプローチでは、心理療法の中核的プロセスはクライエントの体験(個人的ナラティブ)の共感的承認とありうる別の見方の発見であり、そうして個人的ナラティブが書き直されることです。その点では認知療法とメンタライジング・アプローチには共通点があると思います。日本の心理療法界にはいまだ根拠不明な固定観念があります。東先生そして認知療法との対話がそのような固定観念を見直す機会になればと思います。

第7回:統合的心理療法の本質 1/29(日)

<講義1>新保幸洋先生:「統合的心理療法の成立条件とは何か」

通常、統合的な心理療法について議論をする際には、実践の場で用いる理論や技法同士の種類や妥当性・整合性などが問題とされることが多い。しかし、その一方で、それらの理論や技法を用いるセラピストやカウンセラーの治療者としての在り方や個々のケースの実態を的確に把握する観察力、そしてそれらに基づく素早く正確なアセスメント能力の高さといったものに言及されることは少ない。本講義においては、上述した要因を含め統合的心理療法の成立条件として何が必要なのかを、受講者の皆様と共に考えるような内容としたいです。

<講義2>村瀬嘉代子先生:「こころに届く言葉とは~統合的アプローチの実際~」

近年、「統合的心理療法」と題して諸説が展開されるようになったが、クライエントの「必要とするところに応えようとするセラピストに求められる要因」について述べ、事例をもとに御一緒に検討したい。

第8回:感情と体験を重視した統合的心理療法  2/19(日)

<講義1>岩壁 茂先生:「ポジティブ感情と感情変容」

感情に働きかける心理療法技法は、悲しみ、怒り、恐怖、不安、恥などネガティブ感情を解決することを中心に発展してきました。確かにこれらの苦痛を作り出す感情を扱うことは重要ですが、感情変容にはポジティブな感情も大きく関わっています。本講義では、喜び、希望、達成感、プライド、などのポジティブ感情が心理療法のなかでどのように表れ、そしてどのような目的に向けて、どのようなやり方でそれらの体験を促進するのか、ということを学んでいきます。どうぞよろしくお願いいたします。

<講義2>福島哲夫先生:「オンラインカウンセリングで感情体験を深めるには〜そのポイントと注意点」

コロナ禍もあって急速に普及したオンラインカウンセリングですが、その便利さの一方で、難しさや危険性も無視できません。そこで今回はオンラインでもAEDP的な感情を深める介入をするためにはどのような工夫が必要か、また、オンラインで自殺念慮や感情爆発を見せるクライエントにどう対応すべきか等について、実際の動画をご覧いただきながら一緒に考えていきたいと思います。